手を伸ばせば届くところに、
桃の花が咲いている。
少し季節外れの、気後れした花たちだ。
彼女はこの街で、ピーターパンのように人気者。
神出鬼没で、屈託なく笑う。
私はその時、街の橋を渡る仕事をしていた。
橋の多い街だ。
いつも霧が綺麗に降りていて、
草木も月も、充分に潤っている。
街のどこかで新しい建築が始まると、
住民たちは すこしだけ生活を離れる。
青い青い光が飛び散り、
憑かれた者には 他界した恋人が見えてしまうのだ。
そうして街には時折 青い建築物が生えていく。
それから、避けるようにして橋が渡される。
水銀のように、凍えるほど熱い蒸気が見えるときもある。
あまり近づかないことだ。
私は、同じ街の、別の家に住んでいる彼女に会うのが好きだった。
何故かは分からないが、仕事の折にも 思い出してしまう。
橋桁は白と黒の板が寄り集まって出来ていて、
見えない場所には切れない糸が、
たくさんたくさん絡まっている。
(鍵盤の数でしか 世界を表せないなんて ナンセンス)
誰かが唄ってる。
(駆け落ちしようぜ どこへでも)
ピアノは解放されたがっていた。
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